特別なことなんてなんにもない

どんどん全てを忘れていくので記憶の代わりに書いて行くことにしました。amazarashi、荻原規子作品、ドラマ、旅行など日常思いつきで書きます。

あゝ荒野 寺山修司 読了 ネタバレあり

思いがけなく濃密なBLだったんで嗜まないわけではない自分は本当に非常におもしろく読みました。

今さっきあさイチ菅田将暉くん出てて、あゝ荒野が10月から映画上映されるのでメイキングとか映ってますが、めちゃくちゃ身体作ってやってるのですね。映画も楽しみになってきました。🎬

 

この小説はダブル主演もしくはトリプル主演的な作りになっていて、時間や舞台が同じ流れの中でオムニバス形式で色々なドラマが挿入されていきます。

どの話も新宿の街なので少しずつ絡み合ってはいるのですが、新宿新次とバリカンこと二木建二の2人の若者は複雑に交差していきます。

 

二人の若者新次とバリカンはスカウトされてボクシングを始めます。

新次は疑わず躊躇せず練習し戦うのでどんどん強くなって行き、反してバリカンは人を憎むことができずに勝てずにいます。

 

バリカンは吃音のコンプレックスを持っていてボクシングもそのために始めるんですが、天性の腕力の持ち主で、吹っ切れたらものすごく強くなる要素は持ってるんですよね。

 

すっ飛ばしますが、のちのち一緒のジムにいた二人はジムも別れて対戦するという成り行きです。

 

その間に宮木という変態の成り上がりの経営者が出てくるんですが、その人変態エピソードはなんやねんこれと多少不愉快になるのですが、この人のスポーツ観がちょくちょく載ってるのがとても面白いです。宮木いらないと多少思うのですがスポーツ観がおもしろいので許す(えらそうだな)

河原でキャッチボールする二人の男性を見ながらすごく楽しそうで灼けてくるので棒切れ持ってキャッチボールの邪魔するようになるのが野球のはじまりだっていうの笑えました。

 

終盤バリカンがジムを移り、新次と対戦する準備を始めるのですが、そこで新宿の街でいろいろな人に出会い交流して行く様子が書かれています。どのエピソードも仄暗く寂しさのつきまとうものです。

ある日屋上でバリカンはシャツを洗いながら新次を憎む方法を考え、以前一緒に暮らしていた時に脇の毛を剃ってあげたことを思い出します。

このあたりでバリカンは新次を愛していたことがはっきりわかるのですが、それと合わせて、自慰のシーンでバリカンが「この世の他の場所なんてない」そこには行けないと絶望するのですが、これが最終の結果の理由なのかと推察されます。

 

最後の章15章は15ラウンドのことなのかな。

バリカンと新次のボクシングの試合です。

バリカンは13章で今日勝つことができそうと口に出していて、新次はバリカンは自分に打たれて倒れることでバリカンは自分との絆を持とうとしている、そしてそれがうっとうしいと思っています。

二人ともこの試合のわけをきっちりわかってるんですね。

 

バリカンは新次に打ちのめされることが勝ちだと思っていて、新次はそれを嫌々ながら受け入れます。

バリカンは新次に甘えている。言いようがないほどの依存ですよね。

新次は受け入れるんですよね。

新次というキャラクターの造形が本当に美しいです。

 

最後どうなるかは書くのを控えておきます。

 

 

晴れることのない憂鬱を抱えたバリカンの新次に決着を付けてもらいたいと思う依存した愛と甘えはとても自分の持っているものとかぶっていて、あゝ嫌だと思いながらもバリカンは幸せなやつだと思ってしまいました。

 

私も絶望でどん詰まりだと思った時、新次のような死神にそばにいてほしいと願ってるのかもしれない。逆に自分が新次のように誰かの絶望を断つことが出来ることも望んでいます。

 

以上抽象的な感想ですが、秋田ひろむさんがロッキンのインタビューでこの最終章が嫌いだけど好きと言われたのがよくわかる気がします。

まさに言い得て妙です。

 

秋田さんはバリカンに共感したのか新次に共感したのかどっちなんでしょう。もう少し詳しく感想聴けたらいいのにと思います。

 

前もリンク貼りましたが一章読めるので試し読みしてみてください。と言わずブックオフあたりで中古本ありそうだし読んでみてはどうでしょう。

 

 

あゝ、荒野 (角川文庫)

あゝ、荒野 (角川文庫)